グローバルスタンダード

平成21年7月20日
グローバルスタンダード

「ビッグバン」を改革という意味で最初に使ったのは、イギリスのサッチャー首相である。1986年のことであった。日本では橋本首相が、金融大改革を行うに当り、「金融ビッグバン」と命名、フェアーで、フリーで、グローバルな市場を目指すことを内外に宣言した。
規制は大きく緩和され、銀行や証券、生損保間の業務の壁が低くなり、「会計ビッグバン」といわれる新しい会計制度が導入された。「時価会計」「連結財務諸表」「税効果会計」「退職給付会計」などは、逆に規制強化の方向が打ち出された。
私はその中の「時価会計」についていつも疑問に思っていることがある。それは「株式の含み益」についてである。日本では長い間「含み益経営」が経営の常識としてまかり通っていたが、今回のビッグバンにより、期末に時価評価をして、その差益差損を計上することになった。そして国際決済銀行(BIS)が定めたグローバルスタンダードによれば、日本の銀行が保有する株式の含み益は、自己資本に算入することを認めるというのである。株価が高い水準にあり、含み益が十分に期待できるレベルにあれば問題はない。しかし現在のように株価が1万円の大台を割り込んだ状態では、逆に銀行経営を圧迫する要因になってしまう。平均株価の下落によって、含み益はなくなるか、含み損が発生して、自己資本比率は低下してしまう。国際業務を行う銀行は、自己資本比率8%以上、それ以外の銀行は4%以上が求められている。株価の先行きが不透明な中で、自己資本比率を維持する方法は、貸出しを縮小することだと殆どの銀行が判断し、貸し渋りに走ったのが昨年末の状況である。
貸し渋りは景気の後退を招き、景気の後退は株価下落につながり、株価下落は自己資本比率低下につながっていく。資本主義経済の中で、金融機関特に銀行のシステムは、最も安定していなくてはならないものである。反対に株式市場は、最も振幅の激しいところである。最も保守的であるべき銀行システムと、最も変動の激しい株式市場をリンクさせている現在のグローバルスタンダードの時価会計は、大きな問題をはらんでいると思われる。
政府や日銀が銀行の持株を買取る政策を取っていることで、今後は不安定な状態の解消が進むことと思われるが、抜本的な解決策とはいえない。時価会計は誤りである。原価会計に戻れという極論もあるが、新しい方法を考案することも可能であろう。株価は上下に変動するものであり、これをストレートに含み益の増減に反映するのでなく、「変動係数」を使ってその何割かを反映する方法もあろう。何らかの措置を早急にとる必要がある。
日本の株価は、ここ30年間世界の低い評価の中にある。この異常に低い株価を基に、含み益の算出を行い、それによって銀行の貸出し態度に影響が出ることは避けなければならない。銀行は市場での増資による自己資本比率の向上をはかると共に約10年前に行われた金融安定化対策30兆円(13兆円の公的資金の直接投入と17兆円の預金保険機構への資金投入の決意表明)のような、思い切った政策の実行を期待したい。3月末の金融機関の赤字は4兆円といわれる。4兆円もの自己資本の減少がもたらす悪影響は、はかり知れない。欧米の銀行は昨年末より、先を争うように自己資本の増強に懸命の努力をしたのに対し、日本の銀行への資本増強の動きが鈍いのはどうしたことなのであろうか。中小企業の資金繰りに対し今少しの配慮を望みたいものである。

投稿者: jsb 日時: 2009年07月21日 10:20

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